あるサラリーマンの物語

第11章 「7月7日、晴れ」


1.梅雨の晴れ間

梅雨入りしてからというもの、いつも雨ばかり。
例の霧の一件もあって、ぼくはなかなか外に出られなかった。

昨日、先生がステキな検出器をくれた。
これがあれば、例のイオン渦から逃げられる。
雨の日も安心して出歩けるようになるだろう。

そして今日の天気は、くもり時々晴れ。
今のところほとんど「晴れ」と言ってもいいくらい、いい天気だ。

がらららら・・・・かしゃん!

シャッターを開けると、ガレージの奥までまぶしいくらいの日差しが差し込む。
「んっんー!」
外に出て、大きく伸びをしてみる。
まだ朝も早いのに、けっこう暑い。

「山の方って、やっぱ涼しいのかな?」

天気のいい日だと、ここからでも富士山がなんとか見える。

どうかな〜
うん。

炊飯器から、炊けたばかりのゴハンを取り出して
塩を振って、中に適当な具を入れてのりを巻く。
全部で4個あればいいだろう。
ポットにお茶を入れて、コップは2個。
軽く包んで近くにあった手提げの籠バッグに入れて
玄関ドアの掛け看板に行き先を書いて、外に出た。

「梅雨の晴れ間かぁ・・・最高の天気じゃん!」

がらららら・・・・・かっしゃん!
かちゃかちゃ・・・かちゃ。

からん!・・・かんかんかん・・・・


かちゃ。
ばんっ。

かち
きゅるるぼわぁんぉっぉぉぉぉぉ・・・・ふぁおん!ぉぉぉおぉぉぉおぉぉ・・・

こく。

ふぁぉぉぉぉぉ・・・・んしゅぱっ!ふぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・



やがて、車の音は遠ざかり、聞こえてくるのはトンビの鳴き声だけになった。

数分後

ばばばば・・・・、きいっ。

「あんでぇ〜、みずさんもう出かけちまったか・・・・せっかくすいか、配りに来たッてぇのによぉ・・・」
スタンドのおじさんは、ちっ、しょうがねえ、という表情をしながら、ふたたびトラクターに乗り込んで帰っていった。


2.有給休暇

国道に出て、カマクラ方面に向かう。
目印の木が立っているT字路を右折。

ふぁぁぁぁぁぁ・・・んしゅぁっ!ふぁおおお・・・ん・・・
ちょっと、浮かれているかもしれない。
エンジン音が、いつもより高い。

今日、都合がいいかどうかは、未確認。
でも、仮説が正しければ、きっと来るはずだ。

ふぉぉぉぉぉ・・ん、きいっ。

かちゃ
ばんっ

たったったっ・・・

ばんばん!
「おーい!起きてる!?」

がらららら・・・・
「おきてるよ〜」
「ねえ、ちょっと出かけようよ〜」

「んー・・・どこ行くの?」
「富士山♪」
「え〜行きた〜い!」
「すぐ出かけるの〜?」
「おぅ!」
「え゛!?・・・ちょっと待ってて〜」ぱたぱたぱた・・・

がららら・・・・がちゃん!
「おまたせ〜」
「戸締まりは?」
「カンペキ(^^)v」

「あ、そのピアス!この前あげたヤツだよね?」
「えへへ・・・わたしのお気に入りになっちゃった(^_^#」
「よかった〜気に入ってもらえて」
「すごいよね〜こんなの自分で作っちゃうなんて〜」
「ま、もともと手先は器用だからね〜」

「じゃ、ごー!」
ふぁおぉぉぉぉ・・・ん、ふぉぉぉぉ・・・

ぼくはゆうを乗せて、アル坊を西へ向けた。


3.富士参拝

富士山
ぼくの居た時代から何年かあと、数百年の眠りから覚めた富士山は、大噴火を起こしたらしい。
それ以来、富士山の頂上部は斜めに崩落している。

いつか、行ってみたいと思っていた。
ずっと、彼方に見えていた
大きく姿を変えた富士山。
肩の力を抜いたような姿が、ちょっといい感じだ。

ホントは修復されたクーペで行こうと思っていたけど、
まだ当分かかりそうだし、
今日のこの空を見ていたら、今すぐ行きたくなった。



「今日はガレージ休みなの?」
「臨時休業〜♪」
「なにそれ〜!・・あ、でも自営だからいいんだ」
「そゆこと」
「でもめずらしいよね〜急にドライブ行こ!なんて」
「なんか急に・・・ね(^^;」

高速を降りて、国道を北へ向かう。
ちょっと活気のある旧市街を抜け、バイパスへ向かう。
軽トラ以外の車は全く見かけない。



この世界には、乗用車は全然走っていないのだろうか?

「そういえば、この辺って自動車博物館がけっこうあったんだよな〜」
「ん?」
「この辺には、昔、車を展示してた博物館がたくさんあったんだよ」
「あ、それおじいちゃんから聞いたことあるよ〜」

松田コレクションに、河口湖自動車博物館。
免許を取ったばかりの頃、高速をカチコチになりながら
ジャスト100km/hで走って行ったことがある。

今では、同じ道を当時の倍以上の速度で走っているけど。

どこだったかな
この道沿いだったはずだけど・・・

「!?」
「どうしたの?」
「んー、何でもないと思う。なんか後ろですごそうな車の気配を感じたけど、気のせいだね」
「ふーん・・・」
ミラーには、軽トラが小さく映っているだけだった。

バイパスに入ると、だんだん標高が上がってきたのか、徐々に涼しくなってきた。

こんなに近くに来るのは初めてだ
「すごーい!ホントに富士山って、いっこの山だけなんだ〜」
「裾野のラインがきれいだよね〜」



登るのは大変そうなので、富士山の見えるところでひとやすみ、といこうか。
「みずにー、なんかたべもの持ってる?」
「おにぎり作ってきたよ〜、あとお茶もあるよ」
「すごいじゃん、いきなりじゃなかったらわたしが作るとこだけどね〜」
「まーね〜、いつも作ってもらってるから、今日ぐらいはね〜(^^」

誰もいないバイパス
左には、雄大な富士山が間近に迫る
やっぱ、日本一だよな

「ね、ちょっと歩かない?」
「そうだね♪」

上まで歩いていく気はもともとない。
ちょっと雰囲気だけでも、ってやつだ。

お昼まで、富士山がきれいに見える場所を探して
ふらふらとあたりを散策する。

景色のいいところでお弁当タイム。
たまには山もいいな。
木かげは涼しいし、
空気はおいしいし。

いつも海辺しか見てないから、
たまにはこういうのもいい。

「こっち来るのは、初めて?」
「ううん(否定)、前に河口湖には行ったことあるよ〜」
「そうなんだ」
「でも来るのはすごく久しぶりだから、よかったよ〜」
「そっか♪」

大きな木を背もたれにして、富士山を眺める。
視界には富士山以外、何もない。
「う〜んぜいたく〜」
「だよね〜」

気持ちのいい木かげで、そのまましばしうたたね。
ちょっと日が下がり始めたところで、
「そろそろ行こっか?」
「そうだね〜」

背の高い草をかき分けて、車に戻った。
今日はめずらしく、天気予報ははずれたようだ。
見事な快晴。
くらくらするくらい、ひざしがまぶしい。


4.遭遇

ふぁおぉぉぉぉ・・・んふぉん!ふぉぉぉぉ・・・・

ゆるい下り坂
ゆうの運転なので、かなり慎重な走りだ。



「!」
かなり前方で、路肩に止まっていた車が突然走り出した。

「なんだろ、あの車?」
さすがにゆうも不審に思ったらしい。
「急に入ってきたよね〜」

まもなく、その車に追いついた。
「うそ!!?」
「え!どうしたの?」

「BBだよ!!ちょっとちょっと〜すごいよこれは!」
「え〜BBってなに〜?」
「フェラーリのBBだよ〜!たぶん365GT4だと思う!」

「ちょっと〜追っかける気?わたしの運転じゃむりだよ〜」
「大丈夫。向こうは重要文化財並みに貴重な車だから、無茶はしないはずだよ〜」
「もー、わたし120km/h以上は出せないんだからね!」ヽ( ´ー‘)ノ
「充分充分♪」

ぼくの予想は当たった。
小さな6連テールに60タイヤ。
低回転でも存在感のある、レーシングエンジンの血を引く荒々しいサウンド。
そして、カウルの下からのぞく華奢なアーム類は、まちがいなく初期型の365GT4/BBだ。
当然、ナンバーは付いていない。

ぼくの車を見てから本線に復帰したところを見ると、来るのを知ってて待ってたとしか思えない。

それに、全開でバトルという感じでもない。
60km/hくらいの速度で、楽しく流してるという感じだ。

キャッツアイが切れたところで、BBがハザードを出した。
「先に行け、って言ってるんじゃない?」
「前に出てみようよ?」
「うん」
ゆうはゆっくりと、合図を出しながらセンターラインをまたいで対向車線に出た。
BBはすぐに減速し、気持ち左に寄って、ぼくらをスムーズに前に出してくれた。

「やっぱそうだったみたいだね」
今度はこっちが前を走る。
やはり、60km/hペースで。



「みずにー、なんか楽しそうじゃん」
「そりゃそうだよ〜、あんな車といっしょに走れる機会って、めったにないんだよ〜」
「わかるけどさー」

「なんか、なつかしくってさ。・・・こうやっていっしょに走る車自体、今はほとんどないじゃん」
「うん」
「それに、フェラーリって、ぼくの時代の人ってほとんどみんな知ってるくらいすげー車だし」 あ!しまった
「うん・・・」

今の失言、気付かれちゃったかな・・・?

駐車帯が見えてきた。
BBがパッシングしながら、左に合図を出した。

「止まってみようか?」
「そうだね〜」

駐車帯に車を止めると、BBも後ろに止まった。

かちゃ
ぼくたちは車を降りた。


5.過去

BBのドライバーも、降りてきた。
見たところ、60代後半の紳士という感じだ。

「そのアルピナ、音からして本物ですね。・・・すばらしいコンディションで。見事なレストアをされたようですね。
しかもナンバー付きですか・・」
「いやぁ・・・じつはこれ、ノンレストアのオリジナルなんですよ」

「本当ですか!?」これにはさすがに目を丸くして驚いていた。

「ええ。でも、そちらの365も、完全にオリジナルの状態を維持してますよね」
「そうです。レストアはやってないです。再塗装は10年前にやってますが。・・・・お若いのにかなり詳しいですね」
「車関係の仕事をしてますので・・・(^^;」
「そうですよね・・・そうでなければ、知ってる人にしかわからないような車を、好んで乗るようなことないですからね」
「えへへ・・・」
「あ、今の悪い意味で言ったんじゃないですからね」
「わかってますよ。だってフェラーリに詳しい人でも、この車を512BBと間違える人、多いんじゃないですか?」
「そうなんですよ。だからさっき、一発で365とわかってもらえたのが、ちょっと嬉しかったですよ」

「ところで、お住まいはこのあたりですか?」
「ええ。そちらは・・・名古屋ナンバーみたいですが、たしか名古屋はもう・・・」
「はい。もう沈んでしまいました」
「あ、これは・・・・何と言っていいのか」
「いえ、構わないですよ。今はヨコスカの南のほうに住んでます」
「あぁ、あのあたりですか。たしかその近くの研究所の所長さんが、アルピナのクーペに乗ってると聞いたことがありますが、
ひょっとして御存知ないですか?」

「あ、あれはM635ベースのもどきですよ。中身は本物のアルピナのエンジンパーツ使ってますけどね」
「御存知なんですか?」
「今わたしのところでレストア中なんですよ。ちょうど昨日、エンジンが組み上がったところなんですよ」
「そうでしたか」

すると、ゆうが突然話し始めた。
「・・・・実はその所長って、わたしの祖父なんです。数年前にコロニーに行ってしまいましたけど」
え!?
「そうですか・・じゃ、お嬢さんは水谷所長のお孫さんですか!・・大きくなって・・・・」
「わたしの祖父を、よく御存知なんですか?」
「ええ。10年ほど前までは、私とよく箱根を走ってましたよ。時々あなたを隣に乗せておられたことも、あるんですよ」

え!?なにそれ!ちょっと・・・
じゃ、ゆうってひょっとして・・・・・・

その後の会話は、よく覚えていない。



しばらくそのBBのオーナーの人と話をして、ぼくの運転でゆうを家まで送って、そそくさと帰って来たと思う。
気付いたら、一人で長浜海岸に居た。

なんかもう、すごく混乱している。
車の運転が上手いのも、納得。
アルピナを、錆びないように炭酸ガスの風船で覆って大事に保管してたのも、
倉庫の中が昔の物であふれてるのも、納得。
バイオリンを弾くというのも、
この土地に残ったのも。

エンジンを降ろすとき手際がよかったのも、納得。
「そうだよなー・・・普通、バイオリン弾くような女の子がシブサンやニブなんていうスパナの番手を知ってるわけないよ」

朝比奈峠でのダウンヒル。
追いつくのがやっとだった。
そりゃそうだ。
あのコースは、ゆうの家から通信研究所に行くコースだ。
小さいころから、よく知ってる道のはず。

でも、ゆうはまだ気付いていない。
それだけが、本当に唯一の救いだ。
もし、ぼくの正体が知れたら、ぼくはもうここには居られない。



つらすぎるよ・・・・
これからは、祖父と孫の関係を、続けることになるのか・・・
それはそれで、知られない間は、まあいいか。


6.梅雨明け・宣言

朝。快晴。
数日前、ようやく梅雨が明けた。それからというもの、天気はいつもこんな調子だ。
あまり天気がよすぎても、畑が干上がってしまうから困るんだけど。

2週間ほど洗車をサボっていたので、いっそのこと徹底的に洗車することにした。
気合を入れてワックスをかけていたら、首まで日焼けしてしまった。

クーペの修理は、エンジンとボディが終わって、今は足回りの修復中だ。
テストベンチもないので、車体が完成したら実走行でチェックするしかない。



今日はラジオ・トラクター・ミシンに井戸ポンプと、えらく統一性のない仕事が続く。
ゆうが来ない日に、まとめて外回りの仕事を片付けることにしているので、どうしてもこうなってしまう。
「よし、準備完了!」
必要な工具を積んで、いざ出発。

最初に向かうのは、カフェアルファ。
「私、結構早起きなんで、開店前に来ていただいてもいいですよ」
アルファさんはそう言ってたから、今くらいの時間ならちょうどいいだろう。
サンルーフからの日差しが気持ちいい。暑いけど爽快だ。

ふぁおぉぉ・・・・・んきゅっ。
かちゃ。

「おはよ!」
「ありゃま、みずさん。ほんとに朝一に来てくれたんですね〜!」
「えへへ・・。なんか一番最初にここに来たくてね。さっそくラジオ見せてくれる?」
「これなんですけどね・・・。ダイヤル回しても変な音しか出ないんですよ。ほら・・・」

ぴぎゃごごごご・・・ひゅわわうぉうわ・・・

「こりゃ変だね。ぼくのカーステからはちゃんと聞こえてたから、放送局の故障じゃないね。
・・・んーこの音かぁ・・・アンテナ直後かなぁ?」
「直ります?」
「たぶんね。どこがおかしいかがわかれば、あとはぼくの手持ちの部品で何とかなると思うよ」
「あ〜なおってくれるといいな〜」
「結構だいじなラジオなんでしょ?これ」
「ええ。オーナーと喫茶店はじめた頃に買って、それからずっとここで使ってたんですよ〜」

「そうかぁ・・・大丈夫!たぶん直るよ。もう少し待ってね・・・」
このコンデンサが劣化して飛んでるなぁ・・・他は異常なし、と。
自然劣化みたいだから、こいつらを新品に換えればOKだな。他のパーツは・・・
ありゃ〜この辺のは全部ヤバイなぁ。こいつらは替えとかないと、近いうちこわれるぞ・・・


(イラスト制作:ばくさんのかばん さん。毎度サンクスでございます〜)

「直りそうですか?」
「うん、大丈夫だよ。ちょうど部品あるからね。こいつをはんだ付けして、この線は引き直そう・・・よっしゃ、終わったよ!」
「よかったぁ」
「まだまだ。一応音聞いてからね」

かち
《・・・お聞きいただきました曲は、マンハッタントランスファーの・・・でした。次はペンネーム、風 早彦さんのリクエストで・・・》

「どう、ちゃんと直ってる?」
「うわーっ。前より音いいですよ、これ」

「オペアンプのコンデンサをブラックゲートに替えたからね。今はもう手に入らないレアものだよ〜」
「いいんですか?そんな貴重な部品つかっちゃって」

「いいのいいの。どうせ余ってたんだから」
「ありがとうございます〜。ホントこれいい音してますよ〜」
「喜んでもらえてよかったよ〜」

こんなアルファさんの笑顔をみれば、カフェアルファには息の長い常連さんが多い、というのも納得いくな(^^;

「あ、もし時間あったらゆっくりしてってくださいよ。もうすぐお店開けるんで・・・」
「いいの?、これから忙しいんじゃない?」
「たぶん午前中のお客さんは、みずさんだけですよ」

「じゃ、ゆっくりしていこうかな。トラクターの修理は午後でいいや」
「ふふっ。みずさんもすっかりわたしたちのペースになじんできましたね」
「こういう毎日を過ごしてたら、みんなこうなっちゃうんじゃないの?」
「そうかもしれませんね〜」

穏やかな日差しが心地いい。テラスで飲むアイスコーヒーは最高だ。海と富士山と初夏の日差し。
昼になるまでここでゆっくりしていこう・・・




7.ひるごはん

「みずさん?」
「・・・おぉっ?」
いつのまにか、うたたねしてたらしい。そういえば、あしもとの影がかなりみじかい。
「もうすぐお昼ですけど、ごはんどうします?サンドイッチがありますけど、よかったらいかがです?」
「あ、いいの?」
「ええぜひ。ラジオのお礼です♪」

「ありがと、そんなに長居しちゃってたか〜。お昼のこと考えてなかったから、ちょうどいいや」
「じゃ、用意してきますね」
アルファさんがサンドイッチを2人前持ってきた。そうか、アルファさんもお昼なんだ・・・

「あ、これおいしいよ!」
「えへへ、そうですか?」

アルファさんのポテトサラダサンドイッチ。
動物性の油脂とかを使わずに、うまく作ってある。
アイスカフェオレをおかわりして・・・

「ごちそうさま♪」
「どういたしまして〜」
「じゃ、またねー」
午後一番。いざ、トラクターの修理に出撃。


8.夕立

今日最後の仕事は、町の共同井戸のポンプ修理だった。
北の町からの水道が最近よくにごるので、長らく使ってなかった井戸を使えるようにするのだ。
ポンプを分解し、水車にべったりとついているコケを落とし、さびて固着しているモータのブラシを交換。
軸受を新品に換えて修理完了。ついでに給水パイプも洗浄して、試運転。

「どうだい?みずさんよぅ。なおるかねぇ?」
「えへへ、だいじょうぶですよ。・・・はい、直りました。じゃ、スイッチ入れますね」

かちっ。
ごぼごぼごぼ・・・・ばっしゃぁぁぁぁ・・
「うわーっ!!」(注:水かぶった・・・・)
「うわっはっはっはぁ!」
「やったぁー」
「おーい、直ったってよぉー」
「ひーん、ずぶぬれだよ〜(>_<)」

集まってた人達は大喜び。だが喜んでる人のほとんどは、ぼくのずぶぬれになった姿を見て喜んでるようだ。
「いやぁー助かったよホント。これで夏も安心だよー。ありがとみずさん!」
「いえいえどういたしまして。また野菜を少し分けてくださいね?」
「おう!もちろん!米や調味料も持ってくからね!」
「いつもありがとうございます〜。じゃ、そういうことで・・・」
ぼくはそそくさと帰ろうとした。

「何でぇ、ゆっくりしてけばいいのによー。今夜は町内会もあるよっ!」
「いえ、今夜は先約があるので、またの機会に、ということで」
「ちぇっ、しょーがねーなー。今度は来てよ!」
「ええぜひっ」
ぼくはあわてて井戸を後にした。

「あ、そうだ!おーい!みずさん!!」
「はい!?」
「あんた、花火作れるかい?」
「花火、・・・・ですか???」
「おう、再来週によぉ、花火大会やるから、みずさんちょっと作ってみねえか?」
「材料とかは、どっかにあるんですか?」
「うんにゃ、どっかからてきとうに手に入れてきてくれ」
ちょっとぉ・・・ヽ( ´ー`)ノ

「わかりました!何とかなると思うんでやってみましょう♪」
「助かったぜ〜、じゃ、3号玉を10個ばかし頼むわ」
「え!?打ち上げですか?」
「ったりめーよ!第一、みずさん以外に作れる奴いるとおもうかい?」
「・・・そりゃそうですね」
でもさぁ、ぼくも作ったことないよ。
「じゃ、頼むわ!このあたりじゃ打ち上げ花火なんて手に入らねぇもんでよ」
「ひーん!・・・・そういうことなのね(>_<)」

ま、だめもとでやるしかないか・・・・
もし作れなかったら、レプリケータで旧自衛隊の火器を複製すればいいし(ぉぃ

工具をトランクに積んで、車に乗り込み、さあ帰るぞ、と思った瞬間、大きな雷が鳴った。まだかなり遠いが、大きい。
やがてあたりは暗くなり、大粒の雨が降り出した。
「ふぅ・・・。車に乗った後でよかった〜」

突然の夕立。さっきのおひさまはどこへやら。
前を見るのも大変なくらいの大雨。

急いで帰って、ゆうを迎えにいかなくちゃ。


「今度、ぼくがゴハン作ってごちそうするよ♪」
「え〜、できるの??無理しなくていいよ〜」
「(-_-〆」
「ホントに作れるの?」
「まーね( ̄ー ̄)」
「じゃ、7月7日にしよっ!」
「何か意味ありそうだね〜」
「いいじゃん(^ー^)」
「おっけー」

今日は、7月7日。
でも、この雨では、和紙ボディのゆうの車は動けない。

急いで迎えに行かなきゃ。

そんなわけで
ぼくは、とにかくゆうの家に急行した。


9.対向車

あたりはかなり暗くなっている。
ハイビームで路面を照らしながら、ちょっとヤバイくらいの速度で国道を走る。



遠くから、対向車のパッシング。
「あれ対向車だ。めずらし〜・・・ええっ?アルピナ!?」
なんだ〜、ゆうの車じゃん。
それにしても、あの車を運転できるなんて聞いてなかったぞ。

走行車線上で一旦停止。ほかに走ってる車もないので、全然じゃまにはならない。

ゆうが窓を開けて話しかけてきた。
「・・・・・・・・!」
「・・・・・・・・!?」
え!?
「・・・・・・・・!!」
「・・・・・・・・!!??」
2人とも左ハンドルの上に、雨の音が大きすぎて、お互いに何を言ってるのかわからない。

「ちょいまち!!」
ぼくは車を反対側に寄せなおして、もう一回話しかけた。

「なにーこれ乗ってきちゃったんだ!」
「来てくれたの〜!?」
「来れないと思ってさ!こんな天気なのにアルピナ、よく運転できたね!」
「雨降ってきたからこっちで行くしかないなーって思ったから〜!」
「どうする!?戻る!?」
「みずにーん家まで行く〜!」
「おっけー!、じゃ、ついてきてね〜!」

ぼくはすぐにUターンして、2台でガレージに向かった。




10.フルコース

2台のアル坊がガレージに仲良く止まっている。
タイムパラドックスとかは、大丈夫なのかな・・・?

ゆうをダイニングに案内して、ちょっと待っててもらう。
「ごめんねー今帰ったばかりだから、作るのこれからなんだわ」
「いいよ〜少し手伝うよ」
「じゃ、パスタのお湯見張ってて」
「(-_-#)」
「・・・野菜切りながら(−。-)」
「おっけー♪」

こっちはフライパンで小麦粉と牛乳をバターで炒めてホワイトソースの素作りにとりかかった。
「この野菜、ひょっとしてみずにーが作ったの?」
「そうだよ〜。先週あたりから採れるようになったんだよ」
「すごいじゃん!」
「でしょー」

「お湯わいたよ〜」
「じゃ、これを・・・んで、塩をちょちょいと・・・よっしゃ、時間はかっててね」
「おっけー」

次は、特製の石で出来たフライパンでピッツァを焼く。
ふたも石でできてるので、石焼き釜とよく似た焼き加減で作れるのだ。

「この鍋いいねー、みずにーが作ったの?」
「なかなかの出来でしょ?」
「今日のために?」
「そういうこと」
「マニアック〜」
「ほっとけ(^^#」

昨日から煮込んであったスープをあっためたら、準備完了。
たいして時間もかけずに、イタリアンのフルコースが完成♪

「すごいじゃん」
「ぼくだってこのくらいなら何とかできるんだよん」

「じゃ、いただきまーす」
「おう、食ってくれい♪」

ぼくが作った中では、けっこううまく行ったほうだった。
よしよし(笑)

最後にデザートを、冷蔵庫から出した。
「ねえ、雨やんでるよ」
「ホントだ〜」
「外で食べない?」
「いいねぇ」
「飲み物は?・・・っと、アイスのロイヤルミルクティーかな?」
「ばっちり(^^)」

テラスに出てみると、雨が空気を洗い流したみたいに、星がきれいに見える。

「すごーい、星が降ってきそうだよ〜」
「みずにー、あれみてあれ!」
「天の川の・・・こっち側、おりひめだね、んで、こっちがひこぼし」
「そうそう」

しばらく見ていると、驚くことが起こった。

ひ、ひこぼしが動いている・・・!?
なんと、すうううっと、天の川をわたってしまったのだ。

「うっそー何で!?」

次の瞬間、謎が解けた。
急に明るく光り出したのだ。
「なんだー28号コロニーじゃん。びっくりした〜」

そっか、今日はちょうどこの上空に、ゆうの祖父母が暮らしている28号コロニーが来る日だったんだ。
明るくなったのは、昼時間になって集光板を展開したからだ。

「そうだ!」

ぼくは急いで、ガレージから2台の車を出した。
そして、ゆうを前に立たせてハイビーム。

「おじいさんたち、ゆうのこと見えたかな?」
「どうかしらね・・・」ゆうの目に、ちらっと涙が見えた。

「ありがと。きっと、おじいさんたちにも見えたと思うわ」
「・・・・・」
言えなかった。
君のおじいさんは、今目の前に立ってるんだよ。
ゆう
ぼくの、自慢の孫・・・・


後片付けをいっしょにやって、紅茶を飲んで一息ついて、
クーペの修復状況を見せたところで、ちょっと眠くなってきた。

「そろそろ帰ろうかな」
「ん。暗いから気を付けてね〜」
「明日、また来るね」
「うん、クーペのエンジン、明日載せるから手伝ってくれる?」
「走れるんだ♪」
「うまくいけば・・・ね」

「たのしみ〜・・・あ、そういえば、この前みずにーの車の中でピアスかたっぽ落としちゃったのよ」
「ぼくの作ったハートのやつ?」
「そうそう。今度さがしといて〜」
「おっけー、明日さがしとくよ。じゃ、おやすみ〜」
「おやすみ〜」

ゆうの乗ったアルピナのテールランプ。
T字路の減速で、ブレーキランプが5回光った。
「何かの合図、・・・かな?」

ぼくは通りまで追いかけて、
ゆうの車のテールランプを
いつまでも見送った。



(第11章おわり)

そういうこと、だったんですな(笑)
ゆうはぼくの孫にあたる人物だったんです。
期待してた人、残念でしたね〜

次はいよいよ最終回。
果たしてちゃんと終われるか!?(ぉぃ

ご期待ください!

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