あるサラリーマンの物語
番外編 1 「エピローグ」
※このおはなしは、本編全12話を読んでないと、よくわからないかもしれないです。
1.閃
どおおおぉぉぉ・・・・・・ん!!!・・・・・・・・
びりびりびり・・・・
「うおっ!?・・・・なんでぇ、今のは・・・」
この音で目を覚ましたのは、スタンドのおじさんだった。
北向きの窓に面した部屋で眠っていたので、音が聞こえたのだろう。
日の出には、まだしばらくある。
窓越しに、北西の空に大きく立ち上る雲が見えた。
「花火でもねえようだし、何だったんだぁ・・・?」
でも、夜が明けて日が高くなる頃には、すっかり忘れてしまった。
カマクラでは・・・
スズメの鳴き声がにぎやかになり始めた頃、
最近ちょっと早起きになったゆうが目を覚ました。
「んっんー・・・そうだ、みずにーのところに車を取りに行かなくちゃ」
かんかんかん・・・・
「えぇーっ!うそぉ〜!」
車庫に下りてみると、北向きのガラス窓にひびが入っている。
それも、全部。
2階の窓まで、同じようにひび割れている。
「どうして割れちゃったのよ〜」
外に出てみると、外壁にもひびが入っている。
「みずにーに直してもらおっと」
かちゃ
ぱしゃん!
かち
ぶん!ぃぃぃぃぃぃぃいいいい・・・
こく
ふいぃぃ・・・ん・・・・・・・
まだ誰も、気付いていない。
いや、ひとりだけ、
異変に気付いた人がいた。
2.久里浜
・・・・・びいいっ、びいいっ、びいいっ・・・・・
どぉぉぉ・・・・・ん!・・・・・・
「はっ・・・・今の音、何かしら?・・・・」
夜明け前にもかかわらず、夏の朝は早くから明るい。
先生の目に入ったのは、裏山の彼方に立ち上る白い雲だった。
かなり遠い。
かちかちかち・・・・・
「この数値・・・・」
大気中の極性イオン量を測るカウンタの針が、増幅器も入れていないのに振れている。
さっきの爆音から数分が経過しているのに、針はまだかちかちと何度も振り切れる。
「結局、運命は変えられなかったのね・・・・」
先生は、ぽつりとつぶやいた。
あとは、ひたすら静寂な
夏の夜明け。
3.ガレージ
ゆうの電気自動車は、夏の朝日を反射させながらトコトコと走っている。
海岸沿いの道は、じりじりと音を立てて焼けている。
今日はまた、特別暑い日になりそうだ。
林の交差点を左折して、武山のふもとを右折。
スタンドの前を通り、すいか畑のT字路を左折すれば、ガレージに到着だ。
ふぃぃぃぃ・・・・ん・・・・きっ。
かちゃ
ぱん!
「あ、シャッター開いてる・・・・みずにー、いないの〜?・・・車は?」
ガレージの中には、アル坊の姿はなかった。
よく見ると、シャッターのすみに置いてあった植木鉢が、粉々に割れている。
「あ〜せっかくのお花が・・・・」
かけらを手にとって見ると、
素焼きの鉢の縁には、鉄板でこすったような傷が付いていた。
「クーペは置いてあるから、アル坊で出てったんだ・・・でも、植木を割っちゃうほど急いで、どこにいったの?」
エントランスに黒々と残る二条のタイヤ痕は、カマクラの方に向かっていた。
「わたしの家の方角じゃん、・・・でも、うちには来てないし・・・」
ぱらぱらぱら・・・・きいっ
「へえよ!」
「あら、ゆうちゃんも来てたの?」
「おじさん、先生?どうしたんです?」
「みずさん、いないでしょ?」
「どうしてそれを・・・?」
「やっぱり、あの爆発ね」
「あれか、朝方のあの音かい?」
「ええ。たぶんね」
「爆発?うちでは聞こえませんでしたよ」
「たぶん、みずさんが来た時の『あれ』が起こったのね・・・・」
「みずにーに何かあったんですか?」
先生は、言葉を選びながら、ゆうのほうを向いてゆっくりと答えた。
「・・・・みずさんはね、また別の世界に行ってしまったのよ」
「そんな・・・・・どうして?」
「原因はよくわからないけど、みずさんはね、もともとある事故がきっかけで、
ちょうど1年前、この世界にひょっこり現れたの。
そして昨日の夜、私たちの知らない世界に行ってしまったのよ。
診療所にある極性イオン検出器の針が振り切れたの」
「極性イオン?それは何ですか?」
「空間のゆがみの周囲に発生する物質なの。自然発生することはまずなくて、
彼がこの世界に来たときにも発生してたみたい」
「空間のゆがみ?」
「ゆがみの中心は、別の場所や時間、空間につながっていると言われているわ」
「みずにーはどこへ行っちゃったんですか?」
先生は、困ったような顔をしながら答えた。
「60年前の世界から来たと言ってたわ。でも、今度の事故でどこに行ったかは、わからないわ」
「もう、会えないのかしら・・・」
「そんなことないわ。28号コロニーに行けば、『60年後の』彼にちゃんと会えるわよ」
「えっ・・・?」
「実はね・・・あの人、あなたのおじいちゃんだったのよ」
「そんな・・・でも、言われてみれば・・・」
「心当たり、あるでしょ?」
「ええ」
「・・・あれが、おじいちゃんの若い頃だったんだ・・・」
ゆうは、遠くを見るような目で、何を思ってるのだろうか。
「コロニーに居るおじいちゃんは、この1年のこと、知ってるのかしら?」
「さあ、どうかしらね」
「でも、ちょっとうれしかったな・・・・」
「え?」
「おばあちゃんが、うらやましいなーって(^^)」
4.回想
「おーい先生!こっちにすげーなつかしい車があるぞ!」
ガレージの中から、おじさんの声が聞こえた。
「あらまあ、所長サンの車じゃないこれ。まだあったのね」
おじさんも先生も、この車のことはよく知っているようだ。
ゆうが、ぽつりと言った。
「みずにーが直してくれてたの・・・昨日乗せてもらったら、おじいちゃんといっしょに居た頃を思い出しちゃった」
スタンドのおじさんは、黒光りする車体をなでながら言った。
「所長サンがこの車でゆうちゃんを乗せて研究所に通ってた頃はヨ、わしのスタンドに来た時は
ゆうちゃんいつも元気に『おじさーんハイオクまんたんねー』ってよ、思い出すなァ・・・」
先生も、車の中をのぞき込みながら、なつかしそうに微笑んでいる。
「そうねー、ゆうちゃん小さい頃、いつも『じーちゃんじーちゃん』て、どこに行くにも一緒だったのよ」
「みんながコロニーに引っ越す時も、『じーちゃんひとりにしちゃだめ!』ってあなたひとりこっちに残っちゃうし」
思い出した。
10年前・・・
ゆうは、研究所の所長である祖父と一緒に暮らしていた。
中等科の修了検定にも合格して、得意満面なゆう。
家族は数年前に、ゆうと祖父を残してコロニーに引っ越してしまった。
小さい頃から、祖父のそばで大きくなったゆう。
両親よりもむしろ、祖父になついていた。
だから、研究所を離れられない祖父を置いて、家族全員がコロニーに移住を決めたときも、
ゆうは一人、祖父のそばに残る決心をした。
祖母も残るつもりだったようだが、元気なうちに移住したほうがよいという医者の勧めで
やむなく移住を決めた。
幼いゆうにも、祖父母のつらさがわかったのか、ゆうが祖母のかわりに、残ろうと思ったのかもしれない。
そんなある日。
だーん!
からからから・・・・・・
「おじいちゃん!」
「・ぅ・・医者を呼んでくれ・・・」
「わかったわ!」
通信研究所から久里浜の診療所は、けっこう近い。
でも、このときばかりは、途方もなく遠くに感じただろう。
子海石先生を乗せたゆうの電気自動車が研究所に戻ってきたときには、
祖父は危篤状態だったという。
「先生!おじいちゃんは?」
「いま、抗生剤を静注したから、もう大丈夫よ。でも、このままだと危険だわ。コロニーの医療施設に移したほうがいいわね」
「じゃ、すぐに通信してみます」
ざーーっ・・・
「こちら28号コロニー救急センターです」
「こちらは神奈川国久里浜、小海石診療所です。急患が発生しました。近日中に移送が必要です。臨時シャトルの出動を要請します」
「管制センターにつなぎます・・・・」
「こちら管制センター、救急用シャトルをそちら時間で3日後の午前十時に厚木空港へ到着するよう手配しました。対応よろしく。以上」
「了解しました」
3日後、厚木空港に到着したシャトルに、見送りに来たみんなは目を疑った。
「おい、・・・こりゃ、オートパイロットじゃねえか!?」
直径2m、長さ10m程度の筒状の船体。
操縦不要の一人乗りタイプ。
コース設定や軌道修正は、すべてコンピュータが担当する。
ゆうが一緒に乗るスペースは、どこにもなかった。
「ちょっと、これじゃゆうちゃんが一緒に行けないじゃない」
「そう申されましても、当機は一人乗りですので・・・」
「なんでこんな機体よこすんだよ!」
「わたしは重症患者を一名移送するようにプログラムされただけですので・・・」
「オレ行かねえ」
「おじいちゃん!行かなきゃ病気で死んじゃうのよ!」
「ゆうを独りにするぐらいなら死んだほうがマシでぇ!」
「おじいちゃん!そんなこと行ってる場合じゃないよ!みんないい人だし、わたし独りでもさびしくないから・・・ね」
久しぶりに見る、ゆうの本泣きの涙。
そう、こんな感じだったよ。たしか。
「でも、あのときのゆうちゃんの最後の言葉にはびっくりしたわ」
「ああ、あれですか?おじいちゃんを納得させるには、あれしかないと思って・・・・・」
ゆうは、ちょっと恥ずかしそうに肩をすくめた。
「『わたしのことなら本当に心配しないで。ここでおじいちゃんの研究を引き継ぐから』って。
でも、あれ、本気だったの?」
「そのつもりでおじいちゃんのノートとかを見て勉強中なんですけど、まだ研究を再開できるほどまで理解できてないんです」
「ゆうちゃんがおじいちゃんと離れて暮らしててさびしくないなら、それでもいいんだけど・・・」
「さびしいときも、ありますよ。でも、おじさんや先生とか、みんないるし。それにときどき通信もできるし」
「まあ、コロニーと通信できるの?」
先生は、かなり驚いた。
電話も満足に残っていないこの時代に、サテライトが通じる環境がまだあったとは。
「おばあちゃんとだけ、話してるんです。体の調子がいいときは、おじいちゃんも出てくれるんです」
「そうなの〜」
「ここ半年近くは、システムへの電源が供給できなくなっちゃって、ずっと通信できないんですけど」
ちょうど、ぼくが通信研究所のセキュリティエリアに初めて入った頃だ。
ぼくが施設の電源をあらかた止めてしまったので、コロニーとの通信ができなくなってしまったのだろう。
「とりあえずよ、みずさんの荷物を片付けるか?」
「そうね。ゆうちゃん手伝ってくれる?」
「ええ」
6.形見分け
ごそごそ・・・・
「服とかは・・・どうするよ?」
「とりあえずその箱にまとめましょうか?」
服は、そんなにたくさんはなかった。
1年も住んでた割には、少ない方だ。
Tシャツが5枚に、長袖が3枚、ジーンズが2枚に、スーツが1着。
作業着とつなぎが、1着ずつ。
それに、靴が1足。
「あとはガレージの屋根裏ですね」
「おう。いってみるか」
かんかんかん・・・・
総出で階段を登る。
「すげえホコリだな」
「そっと歩かないと、埃が立っちゃうわね」
「窓、あけますね」
からからから・・・・
屋根裏の倉庫。
雑誌や家電の廃品に、車の部品が積んであった場所だ。
窓から、強い光がさしこむ。
矩形に照らし出された一角は、電気屋の店先みたいになっていた。
「うわー、すげえな。みんなきれいになってるぜ。ラジオも冷蔵庫も・・・ほら」
「すごい・・・みんな使えそうになってるわね」
「あ、あれ、なんですか?」
ゆうが、ガレージのすみっこに置いてある木箱をみつけた。
駆け寄って、中身をあらためる。
「この木箱、花火がはいってますよ〜」
「おぉ、そいつは・・・・一昨日頼んだばかりだぜ」
「まあ、3号玉ね。10発もあるわ・・・今度の花火大会に出すつもりだったのかしら?」
おじさんは、木箱から花火を取り出すと、大事そうにさすりながらつぶやいた。
「こいつは町内会からみずさんにお願いした花火だよ・・・最後の仕事になっちまったな」
「どうするの?これ」
「そうだな・・・半分だけ使わせてもらおうか。あとはここに置いておこう」
「そうね」
先生も、同じ気持ちだったらしい。
そして、たぶんゆうも・・・・
「この車は・・・ゆうちゃんのものね」
「このままここに置いてはだめですか?」
「え?」
「また、帰ってくるかもしれないから・・・」
みんな、同じ気持ちらしい。
すぐには、受け入れられないのだ。
「そうね。」
「わたしが・・・ときどきお掃除しに来ますから」
ガレージの中を片付けていると、
いまにもぼくが、
ひょっこり帰ってきそうな、
そんな気がしてならないのだろう。
「カマクラの花火大会って、いつだったかい?」
「今度の土曜日・・・じゃなかったかしら?」
「この花火、みずさんの形見みたいになっちゃったわね」
「・・・だな」
短く言い捨てたおじさんの言葉が、
今の気持ちを
誰よりもいちばんよく表していた。
7.鎌倉花火
10年ぶりの、花火大会。
目玉は、最後に打ち上げられる、大玉。
ナイキJをそのまま打ち上げるという豪快なものだそうだが、
これが、このあたりでは最後の一発という。
この大玉、もともとは、戦争のために作られたものらしい。
でも、この時代では
みんなの心を楽しませるために
打ち上げられる
夕刻
花火を積んだ船が、沖に向かった。
やがて日が沈み、あたりは
じょじょに暗くなっていった。
どん!
ぱんぱんぱん・・・!
「お、始まるみたいだぞ」
最初は、カマクラ商店会の提供する小玉。
どん!
ひゅるる・・・・・ぱらぱらぱら・・・
「お〜」
ぱちぱちぱち・・・
「やっぱ夏はこれだよな〜」
ひさしぶりに見る花火に、集まった人たちは大喜びだ。
あちこちで車座になって、酒盛りなどやっている。
次は、南町の花火だ。
「いよいよだな。みずさんの花火」
「ああ。大玉も楽しみだが、ワシにはこいつの方が心に染みるね」
ぼくをよく知っている人たちだけが、固唾を飲んで見守る。
どん!すぱぁ
ひゅいぃぃぃ・・・・・んどぉぉぉ・・・ん!!
ぱらぱらぱら・・・・
「うお〜・・・・・きれいじゃねえか、なぁ」
「ええ、ほんとに」
続いて4発。
不発も事故もなく、無事に打ち上がった。
「みずさん、元気でな」
最後の光が消える瞬間、
おじさんはそっと手を合わせて
つぶやいた。
でも、最後の大玉はやはりすごかった。
どん!
しゅぅぅぅぅ・・・・・ばぁぁぁぁ・・・・ん!!!!
「こ、こうかーっ」
どわぁぁぁぁ・・・っ!
いろんな歓声が入り交じって、不思議などよめきになった。
そんな今年の夏も、まもなく終わる。
セミの鳴き声が聞こえなくなれば、山から秋の風がおりてくるようになる。
8.研究所
「博士、今度の実験は成功のようです」
「素粒子の周期は?」
「時間軸、空間パターンほか、長期モニターの結果はどれも安定しています。すべて、元どおりです」
「彼の記憶を除いてな」
博士と呼ばれた白髪の老人は、助手の方を向き直って、悔しそうに答えた。
「・・・・はい。それだけはどうしようもありません。いかなる状況においても、記憶の操作は条約に違反しますので」
「条約、か・・・」
「とにかく我々は、あの失敗を挽回するため、できる限り努力しました。それだけは確かです」
「成果を急ぎすぎたのは失敗だった。今思えば、並走する別次元の世界に影響が出る可能性も十分に考えられたのに・・・」
博士は、自ら招いたミスを嘆いている。
「仕方ありませんよ。誰も気付かなかったのですから。初めはみんな実験は成功したものだと思ってました」
極性イオンを干渉させ、空間に亀裂を作る方法が、数年前に学会誌に掲載され、反響を呼んだ。
同じ周期、同じタイミングで作られた亀裂は、裏側で互いに引き合い、ワームとよばれるトンネルを形成する。
たとえば、東京と大阪で同時に同じ周波数で極性イオンを干渉させれば、そこにトンネルができるというのだ。
ワープのようなもの、とも言えるだろう。
実験では直径30cmの「トンネル」が0.1秒間だけ発生した。
最初の実験では、ワームの中にポンと放った野球のボールが、500km先のワームからひょいと出てきた。
課題は、「トンネル」の直径と、持続時間。
高エネルギーを要する装置の小型化と安定性は、静止衛星からのエネルギー供給という方法で解決した。
衛星から走行中の車の直前の空間を「ねらいうち」することで相対速度を稼げば、車ごとのワープも可能になるはずだった。
だが、実際には失敗した。
東名高速を閉鎖して行われた大実験。第2東名があるからこそできた実験。
実験車両がワームを越えた瞬間、青白い閃光と大爆発。
実験車は、蒸気となって出口から噴出。
誰もが実験が失敗したと思った。
別の時代で使われていた携帯電話ネットワークの電波周波数と極性イオンの共鳴周波数が、
偶然にも全く同じであったことが失敗の原因だったとわかったのは、
事故から半年以上も経ってからだ。
博士は椅子に身を沈めると、目だけを助手の方にむけてつぶやいた。
「これで実験は永久凍結だな」
「ええ。無許可で装置を稼動させ、実験に無関係の人間に危害を加えた上、
事故状況を反映した再シミュレーションで理論自体に欠陥があったことまでわかっては、もはやどうしようもないです」
「そうだな。だが・・・・」
「?」
博士の口元が、一瞬ほころんだ。
「もとの世界に戻す時、彼、あの雲の正体を知ってたはずのに逃げてたな」
「ええ」
ソファーに身を沈めたまま、天井の染みの数でも数えているのだろうか。
上を向いたままの博士が、ポツリと言った。
「・・・・ひょっとして、もとの世界に戻りたくなかったのかなぁ?」
「かもしれませんね。・・・どんな世界だったんでしょうね。興味あります。。。」
助手は、そんな博士を見ながら肩をすくめた。
RRRR・・・
「はい、管理局第8研究室」
「博士、まもなく査問会の時間です」
「わかった」
「では・・・行こうか!」
「はい。博士」
研究室を出て、査問会に向かう2人。
強い西陽。
人気のない廊下に、2つの長い影が、所在なげに揺れる。
「彼に会って、詫びを言いたい気分だよ」
「条例に違反しますよ」
「構わんさ」
「でも、どうやって行くんですか?実験装置は証拠物件として押収されてるんですよ」
「どうするかな。・・・また考えるさ」
「そういうときの博士は、もう次のアイデアが頭の中で完成してるんですよね。しょうがない人だ。。。」
コンクリートの廊下に響く靴音が止まった。
「・・・何か?」
「査問会での審理が終わったら、あの世界にこっそり行ってみるか?」
皺に埋まった眼鏡の奥で、博士の目は少年のように輝いていた。
「付き合いますよ」
しょうがない、という口調ながらも、そんな博士の所業を楽しんでいる助手。
「いつになるかな?」
「10年は自由に動けないでしょうね」
「いつになってもいいのさ。時間も空間も自由に跳べるんだから」
「そういえばそうですね(笑)」
博士と助手は、
晴々とした顔つきで査問会に向かった。